ウクライナ東部ハルキウで20日、またも市民の命がロシア軍によって奪われました。

バス停にミサイルが直撃し、3人が死亡。1人は13歳の少年です。15歳の姉も重傷を負い、深刻な状態だといいます。

地元警察:「警察は、これらの犯罪をすべて記録しています。記録したものは、国際法廷に提出する予定です」

攻撃は翌日も行われました。この日も少なくとも3人が死亡。狙われたのは商業施設や住宅街で、クラスター弾が使用されたという情報もあります。

ドネツク州でも、学校や病院が標的にされています。

ルハンシク州全体が陥落して2週間あまりが経過。ドネツク州への攻撃は激しさを増していますが、その割にはロシア軍の侵攻速度は鈍っているのが現状です。

一方で、南部に目を向けると、ウクライナ側の奪還攻勢が勢いを増しています。

戦況の変化をもたらしたのは、やはり欧米から届いた高機動ロケット砲システム『ハイマース』でした。

ウクライナ、レズニコフ国防相:「ウクライナ軍は8基のハイマースの使用を開始し、これまで約30カ所の指令所や弾薬庫を破壊しました。これにより、砲撃力を劇的に衰えさせ、ロシア軍の進撃を大幅に遅らせています」

ハイマースが実戦投入されて1カ月。ウクライナ軍は遠距離から相手の後方部隊をピンポイントにたたけるようになりました。

へルソン州では、ロシアの補給路を無力化しつつあり、反転攻勢の原動力になっていることは明らかです。

アメリカはさらに4基、追加供与を発表しました。ロシアとしては黙っていられません。

ロシア、ラブロフ外相:「西側諸国は自分たちがしたこと、その影響を考えなければならない。現在は地理的目標も変わってきている。ドンバス2州だけでなく、ヘルソンやザポリージャ、他の多くの地域も含まれることになる」

これは、長距離兵器をウクライナに流し続ければ、攻撃対象を東部2州から拡大するぞという脅しです。

これまでウクライナ全土が攻撃されてきたことは誰もが知っていますが、これがロシアお得意の“揺さぶり”です。

同時に、別の揺さぶりもかけてきました。

ロシアの天然ガスをヨーロッパに運ぶ『ノルドストリーム1』。10日ほど前から、メンテナンスを理由にガスの供給を止めていました。

21日は、そのメンテナンスの終了日ですが、その前日、プーチン大統領からこんな発言がありました。

ロシア、プーチン大統領:「点検修理が終わったと言うが、どのような基準で終了したのか。もしかしたら、稼働させても突然止まってしまうかもしれない。そうなれば終わりだ。ノルドストリームはストップしてしまう。なぜなら、修理された部品は、カナダから持ち込まれるからだ」

ノルドストリーム再開はまだかもしれない。資源エネルギーを盾にとった揺さぶりです。

21日にメンテナンスが終わり、ガスの供給は再開されました。もちろん100%ではなく“かつての40%”。EU(ヨーロッパ連合)への当てつけのように減らした供給量は、もとに戻すことはありませんでした。

***

◆防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。

(Q.天然ガスの供給をめぐる動きは、ロシア流の揺さぶりということですか?)

ロシアから揺さぶりをかけることによって、相手の動きを制するという、いつものロシア流の外交手法になります。

今回、ロシア側から供給の停止をちらつかせることによって、ドイツ側から天然ガスの完全な禁輸に踏み込めないように揺さぶりをかけたことになります。

他方で、サハリン2を通じて日本に対しても、ロシアは揺さぶりをかけているので、決してドイツだけではありません。

(Q.40%とはいえ、供給を再開したことは何かのサインですか?)

ロシア側から100%供給を停止するつもりではないということです。

部分的に供給を絞る、停止することによって、完全な禁輸に踏み込んだ場合、どういう状況になるのかをドイツ側に実感させながら、今後のドイツのエネルギー事情などに不安・懸念を呼び起こす、政治的な狙いがあると思います。

(Q.ロシア軍の作戦は「東部に留まらない」という、ラブロフ外相の発言はどう読み取ったらいいですか?)

ウクライナ軍はハイマースを使って、南部にいるロシア軍の軍事拠点に効果的な攻撃を続けています。

ロシアとしても、アメリカなどがハイマースをウクライナ軍に供与すること自体、一定の脅威として受け止めているわけです。

今後、欧米が引き続きハイマースの供与を強めることになれば、ロシアは戦線を拡大して長期戦に持ち込むんだと。

東部2州のみならず、南部やそれ以外の地域を含めて、徹底抗戦していく姿勢を、ラブロフ外相が欧米諸国に外交的に示しながら、欧米諸国による追加の軍事支援をけん制しているんだと思います。

***

ウクライナ国内では、ゼレンスキー大統領が盟友と言われる、ベネディクトワ検事総長と保安局のバカノフ長官を解任しました。「部下の職員60人以上がロシアに協力した反逆の疑いがある」としています。

(Q.盟友まで切ってしまった。ウクライナで何が起きていますか?)

ベネディクトワ検事総長は、ブチャなどの残虐行為が戦争犯罪にあたるとして捜査しています。

また、欧米諸国に対して、ロシアの残虐行為を積極的にアピールしている“ウクライナの対外的な顔”のような人です。

バカノフ長官は、ゼレンスキー大統領の幼馴染で、ゼレンスキー大統領を大統領選挙で勝たせた立役者でもあります。

こういう盟友・側近を解任する事態になったということは、ロシア軍にかなり情報が流れていたのではないでしょうか。

ウクライナ軍の位置情報や軍事拠点の情報がロシアに流れたことで、ロシア軍が効果的な攻撃を行っていたのではないか。

戦況に影響しつつあり、ゼレンスキー大統領としても、看過できなかったということだと思います。

ただ、これはゼレンスキー大統領の足もとが揺らいでいることにもなります。

ゼレンスキー政権の権力基盤の強さがどこまで維持されるのか。ロシアも注目していると思います。

(Q.今後の戦況は、どうなっていくとみますか?)

ロシアのペースで展開しつつある印象を受けるので、少し潮目が変わってきているのではないかと。

外交面からすると、外交的な揺さぶり・攻勢をかけながら、ロシアも欧米諸国に対して強気の外交姿勢を展開しています。

アメリカなども中間選挙をかかえて、バイデン大統領も内向きになっていますし、イギリスのジョンソン首相が辞任を表明するなど、欧米諸国のウクライナに対する支援疲れもロシアは感じ取っていると思います。

戦況に関しては、ロシアは長期戦に持ち込みながら、拙速することなく、確実に歩を進めていく。ロシア軍の焦りも、最近は見られなくなりました。

(Q.戦況がウクライナに有利になるとしたら、どういう可能性がありますか?)

一にも二にも、欧米諸国がどの程度の兵器支援をいつまで、どのレベルで続けられるのかにかかると思います。

いずれにしても、残念ながらウクライナ戦争は長期戦が避けられないと思います。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp

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