押し寄せるインフレの波によって、世界各地でデモやストライキが起きています。

ベルギーの首都ブリュッセルでは20日、平日にもかかわらず、警察発表で7万人以上がデモに参加しました。

デモ参加者:「あらゆる面で厳しくなっています。ストで職場に行けない。燃料代も高い。家賃も厳しくなってきました」

デモ参加者:「生活がどんどん苦しくなってきました。電気やガスの税金を下げれば、国民は満足するし、政府もそれぐらいできるはず」

生活への不安・不満は反政府運動にも直結していくので、一部の国では市民と治安当局が激しく衝突し、逮捕者が出る事態になっています。

日々の生活が困難に陥っている人たちがこんなに増えたのは、上がり続ける物価と、エネルギー価格の高騰が原因です。ロシアによるウクライナ侵攻でより拍車がかかりました。

賃金は上がらないのに、生活費への負担だけが増え、不満がたまり続けます。

本来、ストライキやデモは労働状況の改善につながる重要な手段でした。しかし今、それが逆効果となる事態も生まれています。

韓国では今月初めから8日間、運送業界を中心に大規模なストライキが行われました。

連合ニュース:「今回のストライキの背景の1つは、軽油価格の暴騰です。史上初、1リットル200円を超え、負担が大きくなっています」

このストライキにより、大手酒造メーカーで韓国焼酎『チャミスル』の工場が止まり、飲食業界などが大打撃を受けました。

連合ニュース:「ストライキによる韓国経済への損害は、最低でも2000億円に上る」

状況は悪化し、労働者の負担は増える一方です。

トラック運転手:「仕方なく運送はするけど、1円でも安いガソリンスタンドを探して入れるしかないです」

イギリスでは、駅員や清掃員など3日間で約4万人が参加するストライキが始まりました。稼働しているのは20%ほどに留まるそうで、ここまでの大規模な鉄道のストライキは30年ぶりのことです。

鉄道組合員:「ロンドンでは、家賃が1カ月で3~5万円も高騰しています。月給は上がらないのに、どうやって生きていけばいいのか。食費も家賃も払えません」

イギリスでは、4月の物価上昇率が9%と40年ぶりの記録的水準に達し、5月はさらに上昇しました。

こうしたストライキを冷ややかに見る人達もいます。

イギリス、ジョンソン首相:「このストライキは間違っていて無意味だ」

市民:「誰の得にもなりません。たかだか数百人のせいで、ロンドン中の数百万人が迷惑を被っています」

市民:「鉄道ではなく車で移動すれば、化石燃料を使うようになります。だからストには賛同できません」

◆ロンドン支局の大平一郎支局長に聞きます。

(Q.インフレの影響をどう感じていますか?)

ロンドンに暮らしていると、毎日の生活であらゆるものの値上げに直面せざるを得ません。イギリスの名物料理でもあるフィッシュアンドチップスは、私が訪れた店はかつて8.2ポンドでしたが、4月の値上げ以降は10.65ポンドと、日本円で1700円を超えています。庶民的な料理のフィッシュアンドチップスが、10ポンドの壁を超えると、非常に高いと感じます。

魚の約4割をロシアからの輸入に頼っていて、魚やポテトを揚げるひまわり油の半分は、ウクライナからの輸入でした。それぞれの輸入がストップしてしまったことで、70%以上割高な別のルートからの仕入れになってしまい、コスト高になってしまったことが値上げの背景にあります。

食品だけではなく、光熱費も深刻です。この2カ月で1.5倍ほどになっていて、一般家庭では日本円で年間30万円を超えます。秋にはさらに高騰し、50万円以上になるとみられています。

ガソリン価格も去年の6月に比べると約40%値上がりし、レギュラーガソリン価格は日本円で1リットル300円を超える状況です。

(Q.ロシアによるウクライナ侵攻で、いち早くイギリスはロシアへの経済制裁を実行しました。インフレで生活が苦しくなるなか、意識に変化はありますか?)

イギリスの方々はウクライナへの支援を継続したいという思いに変わりはありませんが、その代償をどこまで受け入れられるかという意識に揺らぎが表れ始めています。20日にイギリスの調査会社『YOUGOV』が興味深い世論調査を発表しました。「生活費が上昇してもロシアへの経済制裁を強化すべき」とする人と反対する人が両方とも42%と意見が真っ二つに分かれています。ウクライナ侵攻直後の3月には「生活費が上がっても制裁強化すべき」と考える人は60%を超えていたので、10ポイント以上減ったことになります。

ジョンソン首相は先週、ウクライナ・キーウを訪問した際「ウクライナ疲れに負けるな」と訴えました。この世論の変化を念頭に置いた発言だとみられます。イギリス政府は、ウクライナへの軍事支援も引き続き強化していくとしていますが、そのコストにより敏感にならざるを得ない状況になっていると言えます。

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去年に比べてどれくらい物価が上昇したか、インフレの状況を表す消費者物価指数のデータを見ると、直近の数値では、アメリカが8.6%、イギリスが9.1%、ドイツが7.9%、ポーランドが13.9%、ブラジルは11.7%、アルゼンチンは60.7%となっています。一方、日本は2.5%と世界と比べると低い水準になっています。

野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏:「物価上昇の生活実感は国ごとで異なり、日本は、低水準でも十分に高いインパクトがある」

木内氏によりますと、日本はこの30年間、おおむね0%台で物価が推移してきました。賃金も上がっていないことから、2.5%の物価上昇でも生活実感として大きいということです。

欧米はコンスタントに年々物価が上昇してきました。さらに“インフレの質”も大きく関係しているといいます。インフレには“良いインフレ”と“悪いインフレ”があります。

良いインフレの時は、好景気の時に賃金アップがつながって需要が高まり、物が不足して物価が上昇します。

悪いインフレの時は、景気低迷・原材料の高騰など、コスト高で物価上昇します。

野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏:「欧米はコロナからの経済回復もあり“良いインフレ”の要素もあるが、日本は“悪いインフレ”の要素しかない」

木内氏によりますと、今の値上がりは、エネルギーと食料品に限定されていますが、インフレが長期化すると他の業種に波及していく可能性があるということです。エネルギーの高騰は輸送費や移動費として観光業界に、食料品の高騰は飲食業界に波及する可能性があります。

野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏:「年内に消費者物価指数3%の可能性もある」
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp

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