01:18 社会的に失うものがない?
02:53 サイコパス?
04:27 被害妄想に支配されている
06:00 背景の問題

本日は「無敵の人はいるのか?」というテーマでお話しします。

無敵の人とはネットスラングで「社会的に失うものがないために犯罪行為をする人」という意味です。
ウィキペディアにはこのように書かれています。ひろゆきさんが言った言葉です。

社会的に失うものとは、家族、友人、仕事、資産(お金)、趣味など、何もなく孤立した人なので犯罪を犯しても失うものがない、死刑になっても良いと思って他人に迷惑をかける、犯罪行為をしてしまう人のことです。
彼らは、罰も死刑も警察も怖くないということです。

分かるような気もします。
直感的には分かる感じがします。
よく考えてみると「何なんだろう」という言葉です。

■社会的に失うものがない?

そもそもその人に社会的に失うものがないのか、ということがあります。

一見社会的に失うものがないように見えたり本人の口からそう言われても、本当の意味で社会から孤立している人はいません。
その人には親だったり家族だったりがいたりします。
それはいびつな愛情であったりしても、繋がりがない人はいません。友人もしかりです。

仕事も、確かになかなか就けないというような問題があります。
本人が望む仕事ではない、本人の自尊心を満たすほどの仕事ではないこともあるけれども、やはり完全に仕事がないということはありません。
もちろん病気で就けないこともあったりしますが、すごくざっくりとした感じかなという気はします。

もちろん孤独の身で生活保護を受けている人たちもいます。
精神科の患者さんにはたくさんいます。

でも彼らが犯罪行為をするかというと絶対にそんなことはないですし、彼らが無敵の人ということは全くないです。

優しい人が多いですし、素敵な考えや素敵な価値観を持っていたり、趣味など色々あったりしますので、必要十分条件というよりは何を指しているのかなという感じがします。

■サイコパス?

無敵の人のことを考えると「サイコパス」を連想される方が多いです。

精神科には「サイコパス」という診断はありません。
ただ似たような概念として、「素行障害」や「反社会性パーソナリティ障害」があります。

人間というのは多様な生き物です。
多様な価値観、多様な考え方、多様な脳の機能を持っています。
その中には、普通の人よりも罪悪感がかなり欠如している人、ほとんど感じられない人、冷淡で共感性が弱い人がいます。

そういう人たちの中で、暴力や他人に迷惑をかけることをいとわなかったり、法律のルールを無視して自己利益のために行動する人たちもいます。
何人かはいるのです、色々なバリエーションの中で。そういう人たちも確かにいます。
そういう人たちに精神科の病名がつく場合、「素行障害」「反社会性パーソナリティ障害」と診断して研究されたりしています。

■被害妄想に支配されている

犯罪に残念にもつながってしまうケースとして、被害妄想に支配されているパターンがあります。

隣の人に暴力を振るってしまう、他人に危害を与えてしまう人の中には、妄想で幻聴などに支配されている、その人から嫌がらせを受けているという妄想を抱いてしまう人がいます。

「妄想性パーソナリティ障害」や「統合失調症」の幻覚妄想状態、「双極性障害」や「うつ病」のうつ状態のときに被害妄想を持ってやってしまう、「アルコール依存」や「薬物依存」で中毒症状が酷いときや、慢性的に使用している人で被害妄想を発展させてしまう人もいます。

被害妄想に関しては薬物治療などしっかり治療することで改善していきますが、治療に結びつかないケースや急激に悪化するケースでそういうことが起きることもあります。

治療の対象なので、措置入院という形で治療に至ることがあります。
医観法の部類で裁判所の命令をもって治療にあたるというパターンもあります。

■背景にある問題

精神疾患のこともそうですが、ベースにある問題として、悪い人には罰を与えれば良いということではなく、背景の問題もきちんと考えた方が良いです。

・知的な問題
そういう人たちの「知的な問題」はどうだったのか、ということがすごく重要です。
知的な能力が低かった、きちんと教育を受けられなかった、発達障害的な問題があったということも大事なポイントであり、それを社会が知る必要があります。

反社会性パーソナリティ障害の人や素行障害の人と発達障害の合併は結構多かったりします。

・経済的な問題
経済的な問題というのもあります。
彼らの貧困の問題、生活保護が適切に取れていたのか、取れないようになっていたのか、ということも問題です。

何か問題があるのに「お前が甘えているんだ」と追い払われているケースもありますし、社会的無関心もあります。
そういう問題があるということに関して、社会があまり関心がないという問題もあります。

・虐待の問題
恨みを持ってしまっている、虐待の問題。
子どものときから虐待を受けていて、社会に対してポジティブな印象を持てていないのは、傷ついた動物のようなものです。

そういう形で全然馴染めない、社会に馴染めない、人間に馴染めない、大人に馴染めないということがあってずっと恨んでしまう、あたたかい場所を知らないというケースもあります。これも社会的無関心の問題です。

虐待は虐待で、虐待の連鎖の問題もあります。
弱者や弱い層、病気があるところを無視して良いのかということがあります。

精神医学的な見地を知っていれば、ネットの問題に対するコメントを見た時に「こうは思わないのにな」ということが多いです。
知識をみんながきちんと持つ、精神科の知識を皆が持って社会的な問題に関心を持ち、その問題を解決していくことが重要なのではないかと思います。

もちろん無敵の人という問題提起も社会的な問題でもあるので、無敵の人という言い方をしているのでしょうけれど、もう少し細かく見ていくとこういう問題があったりするのかな、と思います。

今回は「無敵の人はいるのか?」というテーマで、精神科医ならこう思うということをざっくりお話ししてみました。

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自分の命に価値があることを感じる方法
https://youtu.be/1k4TgQ-LxoM

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『精神科医がこころの病気を解説するChとは?』
 一般の方向けに、わかりやすく、精神科診療に関するアレコレを幅広く解説しています。動画における、精神分析や哲学用語の使用法はあくまで益田独自のものであり、一般的(専門的)な定義とは異っているところもあります。僕がもっとも説明しやすいとたまたま感じる言葉を選んだだけなので、あまり学術的にとらないでいただけると嬉しいです。
                 早稲田メンタルクリニック院長 益田裕介

『自己紹介』
益田裕介
防衛医大卒。陸上自衛隊、防衛医大病院、薫風会山田病院などを経て、2018年都内で開業。専門は仕事のうつ、大人の発達障害。といいつつ、「なんでも診る」ちょっと変人よりの町医者です。
趣味は少年ジャンプとお笑い。キャンプやスキーに行きたいです。
2020年6月5日より断酒継続中。

【参考】
厚労省みんなのメンタルヘルス https://www.mhlw.go.jp/kokoro/
カプラン 臨床精神医学テキスト第3版
倫理規定について https://note.com/mentalyoutubers/n/nb130991f3fa4

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